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消費者問題Q&A

ドレスレンタル契約の解約とキャンセル料

〔説例〕
 Xは、4月15日、同年8月の結婚式で着るドレスをレンタルしようと、レンタルドレス業を営むY店を訪れました。同店では各月のキャンペーン対象のドレスについては安くレンタルできるというサービスをしていたので、Xは、8月のキャンペーン対象のドレスの中からドレス1点を選び、レンタルの申込みをするとともに、即日レンタル代金30万円を支払いました。
 ところが翌日、Xは、偶々訪れた別のレンタルドレス店で自分好みの別のドレスを見つけたので、Y店に対してレンタル契約を解約すると申し入れたところ、Y店からは、キャンペーン対象商品の解約については規約によりキャンセル料がレンタル代金の100%と決められており、頂いたレンタル代金は返金できないと言われました。
 Xは、レンタル代金の返金を請求することはできないのでしょうか(東京地裁平成24年4月23日判決の事案を一部改変)。


〔解説〕
1 民法(原則)
 Y店が規約で定めているキャンセル料条項は、民法420条の損害賠償額の予定に当たります。したがって、XがY店に損害がなかったことや実損害額が予定額よりも少なかったことを主張立証しても、裁判所は損害賠償額を免除したり減額したりすることはできません(同条1項)ので、Xは、Y店に対し、レンタル代金の返金を請求することはできないということになります。

2 消費者契約法
① 民法との関係 
 もっとも、本件契約は、X(消費者)とY店(事業者)との間で締結された「消費者契約」(消費者契約法2条3号)に該当します。
 消費者契約法9条1号は、契約解除に伴う損害賠償額の予定につき、解除により当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は無効としていますが、同条号は民法420条に優先して適用されるものと解されています。
 そこで、本件キャンセル料条項の定めが、解約によりY店に生ずる平均的な損害の額を超えていると言えれば、Xは同条号により保護されることになります。

② 「平均的な損害」の意義と本件へのあてはめ
 「本件のようなドレス等のレンタル契約の解除に伴って事業者に生ずる同法9条1号所定の平均的な損害とは、当該契約が解除されることによって当該事業者に一般的、客観的に生ずると認められる損害をいうものと解されます。具体的には、当該契約締結から解除までの期間中に当該事業者が契約の履行に備えて通常負担する費用、および同期間中に当該事業者が他の顧客を募集できなかったことによる一般的、客観的な逸失利益(解除の時期がレンタル日の直近であるなどのため解除後に他の顧客を募集できなかったことによる逸失利益を含む。)がこれに当たるものと解されます。
 これを本件についてみますと、Xは、挙式予定日より4か月弱前の時点で申込金を振り込んで本件レンタル契約を成立させ、その翌日にはこれを解約する意思表示(本件解約)をしたのであり、その契約締結から本件解除までの実質1日の期間中に、Y店が契約履行に備えて何らかの費用を通常負担するということはできず、また、そのような実質1日の期間中に、他の顧客を募集できなかったことにより、Y店が一般的、客観的に利益を逸失するということもできません。(中略)
 したがって、本件解約によりY店に生ずる平均的な損害はないというべきであって、本件キャンセル料条項は、本件解約との関係では、法9条1号により無効であると認められます。
 以上より、Y店は、Xが振り込んだ本件ドレスのレンタル代金を法律上の原因なく利得したものと認められる」(事案に合わせて表現を一部改変)ので、XはY店に対し、不当利得としてその返還を請求することができます。


〔参照条文〕
民法
(賠償額の予定)
第四二〇条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

消費者契約法
(定義) 
第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2  この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4  この法律において「適格消費者団体」とは、不特定かつ多数の消費者の利益のためにこの法律の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体(消費者基本法 (昭和四十三年法律第七十八号)第八条 の消費者団体をいう。以下同じ。)として第十三条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分